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第102回国際協同組合デー記念フォーラム 協同組合はすべての人によりよい未来を築きます

 去る7月16日(火)地産地消ふくしまネット主催の「第102回国際協同組合デー記念フォーラム」が、JA福島において開催しました。

 県内の協同組合を始め協同組合を支援する団体から約190名が参加しました。

 冒頭、管野啓二地産地消ふくしまネット会長より、主催者あいさつがありました。

 「地産地消運動促進 ふくしま協同組合協議会を代表し、一言ご挨拶を申しあげます。

 本日はご多用のなか、「国際協同組合デー記念フォーラム」にご出席をいただき、誠にありがとうございます。

 国際協同組合デーは、世界各国の10億人の仲間と共に協同組合運動の発展を祝い、さらなる前進を誓い合う日であり、今年で102回を迎えました。毎年7月の第1土曜日と定められており、今年は7月6日でしたが、「協同組合はすべての人によりよい未来を築きます」をテーマにこの前後に各地で記念フォーラムが開催されております。

 また、国連は、2012年に続き、来年を2回目の「国際協同組合年」に定めました。

 2030年にゴールを迎えるSDGsの実現に向け、食料安全保障や女性の地位向上、気候変動への対応など、社会の発展のさまざまな面での協同組合の貢献と役割を国連が高く評価した証です。多くの社会課題の解決に、協同組合の存在が不可欠なのは言うまでもありません。

 7月9日には、全国の実行委員会組織が発足し、国際協同組合年に向け動き出す準備が進められています。

 本県としてもこの地産地消運動促進ふくしま協同組合協議会を基軸に多様な協同組合組織と連携しながら協同組合の理解促進、SDGs達成への貢献などに取り組んでまいります。

 本日は、京都大学名誉教授の新山陽子氏をお招きして「食料安全保障に資する適正な価格形成と消費行動」に関する基調講演をいただいた後に、JAふくしま未来、福島県漁連、日本生協連、県PTA連合会の代表者に新山先生の講演をふまえて「適正な価格形成と消費者理解醸成」についてそれぞれの立場からパネル討議をしていただく予定です。

 参加者のみなさんからも積極的に質問やご意見をいただきたいと思います。

 結びに、本日ご参会の皆様のご活躍と協同組合組織の発展を心よりご祈念申しあげ、主催者のあいさつといたします。」

 その後、京都大学の新山陽子名誉教授1が、食料安全保障を後押しする公正な価格形成と消費行動について基調講演がありました。

 新山教授は、何故、適正(公正)な価格形成が求められるか?公正な価格形成とは何か?について、以下の様に話されました。

●これまで農業政策は農業の世界に閉じて考えられてきた。しかし、農業は食料を生み出す源であり、すべての人の生活と命を支える役割をもつ

農業は、食料政策の要となるFAO定義の食料安全保障(food security)の基盤であり、そのつながりにおいて捉えることが必要であり、食料政策と農業政策の十分な接合が求められる

農業の存続には、農産物の価格が生産コストを償うものであることが前提になる。

原材料の高騰時には、価格への反映を求める声が高まるが、極端な高騰時には別の保障措置が必要である。日頃からコストが十分に償われてはいないことこそが問題である。農業者自身も、コストを十分把握しているとは言い難く、それが認識できていないのではないか

●では、償われるべきコストとは何か。それは、支払いコスト以外に、家族労働報酬や減価償却費などを含むものであり、農水省「生産費調査」の「全参入生産費」に相当するものである。

→償われるべき生産コストとは何かが十分に認識され、それを踏まえた価格交渉がなされることが必要

●食料の生産と供給は、多段階の産業からなるフードシステムとしてつながり、複数の市場(売買)をへて、最後に生活者に購入されて完結する。このフードシステム全体の価格形成が「公正」になされ、かつ生活者もそれを買う力がないと、農産物の公正な価格形成は実現しない

小売の交渉力が強く、しかも、日本では安いことが良いことという風潮のなかで、安く売るために安く買われている。大手食品小売も利益が出ておらず、誰も得しないフードシステムといわれている。生活者にとっても、安かろう悪かろうになってしまいかねない

そして、フランスのEgalimⅡ法や農水省価格形成協議会、ワーキングの検討などについて解説され、公正な取引・価格形成に向けた日本の課題について、以下のように話され、基調講演を終えられました。

1)公正な価格形成の仕組みの形成、契約・価格形成に関わる法の制定について

  • 農業者と買い手の契約、価格交渉がどのように行われているかを分野別に調べ、課題を検討
  • それに基づいて関係組織の意見聴取、議論が必要
  • 食品製造者とその買い手、卸売市場(特に相対取引)についても同様
  • その上で、農業、製造業、流通業(卸、小売)にわたるルールについて、独占禁止法との関係を含め、どのように組み立てるかの検討が求められる:自動改定方式及び改定方式が望ましい

2)生産費と価格データの収集・分析の仕組みづくり

  • 農林水産省と関係機関(農林水産政策研究所、農研機構など)との連携、大学研究者の関与→統計情報部の人員・機能の拡張が必要か
  • 生産費統計:かつては、多くの部門で生産費調査が行われ「全参入生産費」が出されていたが、現在は、農業経営統計調査のなかで、経営所得安定対策などの対象である畜産物、米・小麦等に限定
  • 営農類型別経営統計は、多くの部門で実施されているが、経営費の算出
    →支払い費用でない家族労働費を含む「全参入生産費」の把握が必要
  • 市場価格統計
    畜産物、野菜:卸・小売価格を農畜産振興機構が公表はない
    米:生産段階からの出荷価格を農水省、小売価格を米穀機構が公表
    食品:小売価格を「小売物価統計調査」(総務省)で公表、卸価格の公表は

3)法に基づく品目ごとの専門職業間組織の形成:関係者の議論の場、コスト指標作成機関として重要

  • 組織の性質・役割を定義し、認定する法の制定が必要
  • 組織は、課徴金を集め、予算規模を確保し、専門性のある人材を集められるように
  • データの収集・分析ができる技術研究センターを設けられるようにJミルクが専門職業間組織に相当:CNIELをモデルに設立
    ※各段階の専門職業組織を強化することも必要

4)生活者(消費者)が公正な価格で購入できる基盤を整える必要・生活者への情報提供が必要

  • 生活者は、小売店の価格をみても、生産者が適切な報酬を得られているかどうかはわからない。フランスで実験されるように、コストや報酬を示して理解を得ることが大切・生活者の認知の仕組みへの対応:価格を判断するとき内的参照価格と呼ばれる認知の仕組みもち、過去に経験した価格を記憶し、損失を避けるため、それを基準に安いものを選ぼうとする。その是正が必要(新山,2008;鬼頭,2022)
  • 農業・水産業の総生産額に近い残飯(11.1兆円)が発生、食べ残しを減らすことが必要
  • 購買力を持つには、賃金の引き上げが必要
  • しかし、それだけでは、誰もが食品を公正な価格で購入することはできない。先進国で最低水準となっている給与を引き上げ、経済状態を改善することが、何よりも重要
  • このことを、農業、食品産業界からも、社会や企業に発信していくことが必要であり、農林水産省からの発信も必要

《パネルディスカッション》

テーマ:「公正な価格形成と消費者理解醸成に必要な食農教育の充実」

コーデネーター:JCA 山下富徳常務理事2

パネリスト:JAふくしま未来 佐久間英明代表理事専務

福島県漁連 齋藤 健災害復興プロジェクトリーダー

日本生協連 二村睦子常務理事

福島県PTA連合会 相田知津子副会長


《JAふくしま未来の佐久間英明代表理事専務
3

1.生業を続けるため、生活していくためには、ある程度の収益は必要です。次の作付けや農業を継続するためにも。

5年後、10年後に農業を続けるかのアンケートを10,000人を対象に行い、約7,500人から回答を得た。5年後に廃業とした答えは25%、10年後に廃業とした答えは54%に上った。主な理由は高齢化と農業だけでは生活に不安があり、子や孫に継いで欲しいとは言えないとのことでした。

2023年末から、200人を対象とした農業に費やした年間経費や労働時間などの調査を行っている。既に桃やきゅうりでは、kg単位でのコストが出ており、年末には品目ごとのコストが出揃う。こうしたデータは国や県にはないと思う。

毎年、収穫期には、生産部会から、要請価格を出しているが、その額まで届いていないのが現状。

2.農業者の現場の声が届いていない。情報発信をもっとすべきだろう。農業者によって、レベルの差があり収穫量が違ってくる。技術力の向上を進めることも必要だと感じている。

農家も消費者であり、自分が育てている農産物だけで暮らしているわけではない。

3.保育園・幼稚園・小学校の53校を対象に学校現場に行って、農業の話をしている。

約5,100名が参加された。バケツ苗、野菜づくり、野菜を使ったジャムづくりなど。

営農指導者が作物ができるまでの話をしたり、ときには圃場に出かけ体験教室も行っている。花を作る農家もいるので、生け花を教える「花育教育」も行っている。

しかし、残念なのは中学校からの申込がないこと。

《福島県漁連の齋藤 健災害復興プロジェクトリーダー4

1.漁業継続のためには+αの収益が必要。季節や漁獲量で価格が変わるので、妥当な価格については、何とも言えないが、漁業者からは、現状は少し安いとの声を聞く。

後継者がいないのは、農業の現場と同じ。

漁業者は、消費者の喜ぶ姿を見たいと思っている。そうした漁業者の想いを分かって欲しい。

福島県沖では、約200種類の魚介類が獲れる。全種類食べて欲しいところだが、食べ方がわからない。売っているところが分からないというのが現状です。

昔は、漁業者は、魚を獲ってくる人でしたが、今は6次化といった加工も行い、消費者に如何に食べてもらえるか努力をしている。

今後も漁業を続けていけるかは、人それぞれの判断になる。

2.漁業の現場の声を届ける情報発信は必要です。

福島の漁業、売り方や食べ方など漁業者だからできることを進める。

3.イベントなどで試食会や浜のかあちゃん料理教室で「漁師めし」を教えたりしている。県が進めるホープツーリズムにも参画している。

未利用魚の活用などもラーメン屋などとコラボしている。築地では外国人にも試食していただくなどのイベントも好評です。

《福島県PTA連合会の相田知津子副会長5

1.国際情勢を考えると価格が上がっても仕方がないと思いますが、直売所や宅配を利用しながら、安全・安心な食生活を心掛けている。

大事な農林水産物を残さずに食べる。食品ロスが問題だと思っている。生産者の声を直接聞く機会は少ない。

2.地産地消、作っている人がわかる直売所を利用し、これは誰さんが作った作物だよといった食卓での話題にしていく。学校では給食で使う作物を作った農業者を呼んで、一緒に給食を食べる会を催している。

3.たんぼの学校、生き物調査などの環境教育も行われている。季節の野菜、旬の野菜を使った伝統食の調理教室も行い、地域の食文化を守っている。

夏休みの宿題に、オコメをつかった弁当づくりなども行っている。

《日本生協連の二村睦子常務理事6

1.食料・農業・農村基本法には、残念ながら水産業や魚食についての記述がない。

日本の総人口に占める基幹的農業従事者数の割合は、約0.7%に過ぎず、消費者が農業について知る機会が少ない。

2.消費者は生産にかかるコストが上昇していることは知っているが、安い時の価格を知っている(内的参照価格)ので、価格が上がることへの抵抗はある。

しかし今は良くても子や孫の代になって、作る人がいなくなっては困る。将来に備えたコストも含まれているということを忘れてはならない。

生産者の情報は、特に都会では少ない。

SNSなど情報伝達の方法を駆使して伝える努力が必要。「全農広報部【公式】日本の食を味わう」といったツイッターは参考になる。

都市部と生産地、消費者と生産者の相互理解を深めて、透明で公正は価格形成を目指す。

3.生協では産直活動で産地見学などを行っており、見学先の農産物を店舗や宅配で扱っているので、見てきた農産物を買って食べることができる。

コロナ禍の中、オンラインでの産地交流会が広がった。

今の産地の様子が見られ、人気がある。リアル見学会は参加者数に限りがあるが、オンラインの場合は、たくさん参加いただける。

この頃の特徴としては、ライフスタイルの変化か、お父さんたちの参加も増え始めてきた。

産地の後継者の中には、農業を継ぐことを決心し、この土地で生きていくだけと思ったが、消費者との交流もできるし、都会から呼ばれて話をしに行くこともあり、やりがいを感じるといった声をお聞きすることもある。

《コーデネーター:JCA 山下富徳常務理理事》

パネラーの皆さん、貴重なご意見ありがとうございました。

「知らせる努力・知る努力・繋がる努力」が大切ですね。

《新山教授》

そこに「議論する努力」も付け加えてください。

会場には、福島大学の食農学類の学生たちも数多く参加されていました。

その中のお一人4年生の藤田莉緒さんから、感想をいただきました。

 今回のフォーラムに参加して、農水産物の公正な価格形成のためにはどのような取り組みが必要かを学ぶことができました。

 初めの新山先生のご講演は大変勉強になるものでした。

 現在の農水産物の価格形成には消費者の内的参照価格が大きく関わっていることは大学での講義を通して知っていましたが、この課題を解決する有効な手段は何かという答えは自分では見つけられずにいました。

 しかし今回、新山先生のご講演を聞き、小売店で生産コストの掲示を行うこと、また賃金を引き上げ生産者の購買力を向上させることが必要だとわかりました。

 そのためには行政の働きかけも重要だと痛感しました。

 私は現在、福島県職員を目指しており、福島県の農業の発展に貢献したいと考えています。今回学んだことを自分のキャリアでも活かしていきたいです。

 次に行われたパネルディスカッションでは様々な立場の方からみた考えを知ることができ、貴重な経験となりました。生産者視点では、そもそも生産者の方が労働報酬を含めた生産コストを把握していない現状があると知り、まずは生産者の意識を変えていくことが重要だと感じました。JAふくしま未来では生産コストを明らかにする調査を行っているとのことでしたが、これは多くの生産者のサポートしている協同組合だからこそできる取り組みです。この取り組みをさらに他の単位農協へ広げていき、情報を共有していくことが農産物の公正な価格形成に繋がっていくのではないかと思います。

 消費者視点では家庭内で食への興味を高めていくことが重要だと感じました。最後に「知らせる努力・知る努力・繋がる努力・議論する努力」という言葉がありましたが、今回のフォーラムを契機に多くの人が身近にある食について考え、農産物が公正な価格で取引される必要性を実感してもらえればと思います。

 そして、私もフォーラムでのお話を友人や家族などと共有し食に対する意識を高めることで貢献していきたいです。

1 広島県生まれ。京都大学農学部卒業、同大学院農学研究科 博士課程修了。京都大学農学博士。京都大学農学部助手、助教授を経て2017年まで大学院農学研究科教授。立命館大学経済学部教授を経て、2022年まで食マネジメント学部教授。京都大学名誉教授。2020年に一般社団法人フードシステム研究所・京都を設立。代表理事。

2 熊本県出身。

1986年全国農業協同組合中央会(JA全中)入会。経営指導部長、JA改革推進部長、総務企画部長を経て、2020年8月よりJA全中常務理事。
2023年9月よりJCA顧問、2024年6月よりJCA常務理事

3 2007年4月JA新ふくしま経営管理委員。2010年4月JA新ふくしま理事。2016年3月JAふくしま未来理事。2022年5月からJAふくしま未来代表理事専務。

4 2022年4月から現職。前職は福島県水産海洋研究センター所長。専門は、水産利用加工。震災後、福島県の水産関係施設や漁船の復旧、復興等の支援事業に従事した。

5 2020年度〜2022年度南会津町立田島小学校PTA会長。南会津郡PTA 連合会会長。2020年度福島県PTA連合会監事。2021年度から福島県PTA連合会副会長

6 岐阜県出身。1991年日本生協連入協。環境・食育・消費者運動等の活動支援を中心に携わり、2021 年より現職。2021年から食料・農業・農村政策審議会委員。

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